ブラーと長官がカフェでケーキ食べながらきゃっきゃするロンブラSS。
「さあ、ここだ」
「ふわああああああああああああああ…!」
白を基調とした壁と温かみのある木で構成された綺麗なカフェに
連れて来てもらったブラーは店内に入るなり感嘆の声を上げた。
「ステキステキステキです! それにとてもおいしそう!」
「ははは。噂には聞いてたが君は本当に甘いものが好きなんだな」
近くのウインドウに張り付いて興奮するブラーに笑みを投げかけるロングアーム。
ブラーが無類の甘い物好きである事を聞き、日頃の労いを兼ねてとびきりのカフェに
連れて行く事になった。普段のクールさはどこへ行ったのか、目をキラキラと輝かせて
全身で喜びを表現している。間を置かず、すぐにスタッフと思しきトランスフォーマーが
二人に声をかけた。
「イラッシャイマセ」
クリスタルで出来た細身の体が繊細な白いフリルに包まれていて、上品な物腰と
仕草は店の印象を数倍増しに好ましく思わせた。
壁一面の大きな窓の側に二人は案内され、ブラーは感嘆の声を上げ続けている。
「何でも注文するといい」
「あああああああありがとうございます長官!」
薄いグリーンのメニュー・ホログラムに熱い視線を投げかけるブラーをロングアームは
不思議な心持ちで見つめていた。たかがケーキなのに、何故ここまで喜べるのだろう?
これもいいあれもおいしそうとメニュー上で動く指はタップダンスを踊っているようだ。
「食べ切れる自信があるなら、全部頼んでも構わないよ」
「ちょ、長官長官長官……! そんな事を言われたら僕は……!!」
少しの遠慮と隠し切れない喜びが溢れている表情にロングアームは苦笑する。
「本当だ。遠慮はいらない」
ロングアームを見て、メニューを見て、またロングアームに熱い視線を投げかける。
うながすつもりでロングアームはにこりと笑った。弾けるような笑顔でブラーは
手元のホログラムに目を向ける。ピアノを弾くように次々と注文が入力されていく様子を
ロングアームは静かに見守っていた。さて、どんなものがどれだけ運ばれてくるのやら……。
「お待たせ致しました」
先ほど席を案内してくれたスタッフが、2人のスタッフを引き連れてやってきた。
両手の銀製トレイには色とりどりのスイーツがこれでもかと乗せられており、50センチは
ありそうなパフェが乗ったトレイのバランスを片手で軽々と支えている様子はさながら
熟練したパフォーマーの芸を見ているようだ。ブラーはと言えば、目がダイヤモンド
そのものであるかのような尋常ならざる輝きを放ちながら、待ち望んでいたメニューが
目の前へ並んでいく様子を見つめていた。彼女達は上品な仕草で丁寧に名前を読み上げながら、
芸術とも言えるべきそれらを順番にテーブルの上へ並べていく。最後に数本のフォークとスプーン、
60センチの特注スプーンを置いて、挨拶と共に静かに席を離れていく。
「ふわ。うわあああああああああ……!!」
口の端からよだれが垂れそうだ。
「どうぞ」
「いた、いた、いただきますいただきますいただきますー!!」
ブラーはまず最初に沢山のストロベリーとアイスクリームでデコレーションされた
50センチパフェを引き寄せた。長いスプーンの先が頂点の苺と生クリームを山盛りすくい、
ぱくりと一口で消えてなくなっていく。
「~~~~~~~~~っ!!」
「おいしいか?」
返事はわかりきっているが、ロングアームは尋ねずにはいられなかった。
「おいしいおいしいおいしいです!!!」
パフェはあっという間になくなった。そして生クリームが添えられたオレンジ・シフォンケーキに
柔らかくフォークが埋まっていく。一口食べるなり、ブラーがまたしても感嘆の声を上げた。
「ここここのシフォンケーキはおいしいおいしいおいしすぎますー!!!!!!!」
「この柔らかさと適度な弾力を兼ね備えたしっとり具合! 決して空気でごまかすような
ずるさのない大きさとふくらみ! 天上の雲のように優しく舌を受け止めてくれる絶妙な甘さと
フルーティな味わい! これ程までおいしいシフォンがあるなんて僕は僕は僕は僕はー!!」
「ぶ、ブラー。落ち着くんだ」
彼はその絶品だと称するシフォンケーキをいつもの彼らしからぬスローペースでゆっくり味わっている。
そんなに美味いのか……。少しの興味を示したロングアームは追加注文を試みる。
「長官長官長官。長官も何かご注文を?」
「ああ。君が絶賛しているそのシフォンケーキが少し気になってね。ええとどこだ……」
「あのあのあの。よ、よろしければ一口食べませんか?」
「え?」
ブラーが手付かずの一皿をすいと進めてくる。
「こっちはまだまだまだ口を付けてないのでよろしければ……」
「一口だけでいいんだ。味見をしたいと思っただけだからね。よければその一口
残ったそっちの方を私にくれないか?」
「ここここれは食べかけ食べかけ食べかけです! 長官に食べかけを差し上げるなんて!」
「私は気にしないよ」
「でもでもでもでもでも!」
力説するブラーを尻目に、するんとフォークを持ったロングアームの腕が伸びて、
一口分のケーキがぱくりと食べられてしまう。もぐもぐと咀嚼して飲み込み、ロングアームは頷いた。
「ふむ……。確かにこれは美味いな」
「ちょちょちょ長官長官長官! 僕の食べかけ……!」
「また来る事があれば一つ頼んでみるかな」
頬を染めながら何か言いたそうに唇をむぐむぐとさせるブラーにくすりとロングアームは笑う。
照れ隠しのように、ブラーは残りのケーキを猛烈なスピードで食べ始めた。
「あのあのあの……長官」
「何だい」
すでに何皿目かわからないケーキの皿に視線を落としてブラーは言った。
「ケーキもパフェもクレープもアイスクリームも全部全部全部美味しくて。こんなに素敵なお店に
連れてきて頂いてとてもとてもとても嬉しいです」
「でもでもでも。長官と一緒においしい物が食べられるこの時間が……僕は一番嬉しいです……」
「…………!」
急に店内の音が際立って聞こえた。意味ありげな沈黙。
ドキリと脈打った胸のスパークを怪しまれはしないだろうか。
「……………………」
目の前の有能で甘いもの好きなアクアブルーの部下は手元のスイーツから目を離さない。
ブラーとロングアームはまだ『そういう仲』ではないがこれから先、きっとそう遠くない時期に
何かが起こるのかもしれないという予測が、芳しい紅茶の香りと共にロングアームの
ブレインサーキットをふわりと掠めていった。
END
最近ものすごく美味しいケーキのお店に出会ってしまって勢いで作ったSS。
ブラーさんは甘いものが大好き大好き大好きですよー